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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)1023号 判決 1958年10月14日

上告人 高瀬良孝 外一名

被上告人 田納せき

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人等代理人景山収の上告理由第一項について。

上告人田中が本件家屋を占有していることについては、同上告人において昭和二七年一〇月一八日の一審口頭弁論期日にこれを自白し、原審で右自白の撤回を主張し、同年同月右家屋から退去したと述べたのであるが、原審は、同上告人の同年夏頃まで右家屋に居住しその後他に転居した旨の供述を排斥し、他に前記自白が真実に反し錯誤に出たものと認めるべき証拠がないと判示し、自白の撤回は許されないとしたのである。したがつて、その後原審口頭弁論終結時までに右家屋から退去し、その占有を失つたことを同上告人の主張しない本件においては、右自白に基いて爾余の判断をなした原判決に所論の違法はない。

同第二項について。

本件土地の元所有者亡森田てふが本件土地を田中秀三に贈与しても、その旨の登記手続をしない間は完全に排他性ある権利変動を生ぜず、森田てふも完全な無権利者とはならないのであるから、右森田てふと法律上同一の地位にあるものといえる相続人森田信太郎から本件土地を買い受けその旨の登記を得た被上告人は、民法一七七条にいわゆる第三者に該当するものというべく(大正一四年(オ)三四七号、同一五年二月一日大審院民事聯合部判決、民事判例集五巻四四頁参照)、前記田中秀三から更に本件土地の贈与を受けた上告人田中徳三はその登記がない以上所有権取得を被上告人に対抗できないとした原審の判断は正当であり、所論はこれと反対の立場に立つて右の判断を攻撃するもので採用できない。なお引用の判例はいずれも本件に適切でない。

同第三項について。

被上告人が上告人田中の本件土地の所有権取得を承認し、その登記欠缺を主張する権利を放棄したとの主張については、原審は、挙示の証拠により判示の事実が認められるだけであり、右認定に反し上告人らの主張にそう供述は採用し難く、他に右主張を認めるに足る証拠がないと判示したのであるが、原審の右事実認定および証拠の取捨判断は首肯することができ、この点に所論の違法は認められないから、所論は採用できない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島保 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

上告人等代理人景山収の上告理由

一、(略)

二、原審が其理由中「当裁判所は被控訴人の本訴請求は理由あるものと認める其理由については……原判決の理由は相当として首肯し得るから之を引用する」と判示して居るから其基礎たる第一審判決の理由中「(一)然るに被告両名は本件宅地の所有権者は被告田中徳三であつて原告ではないと主張するので先づこの点に於て判断する。被告両名本人訊問の結果によれば本件宅地は元森田てふの所有であつて昭和五、六年頃同人は本件宅地を訴外田中秀三に贈与し更に昭和二十二年頃被告田中徳三、訴外田中秀三、同森田信太郎三者の協議により本件宅地は訴外秀三より被告田中徳三に贈与された事実を認める事が出来る。併し被告田中徳三が本件宅地に付右認定の贈与による所有権の取得を以て訴外森田てふの家督相続人として相続による所有権取得登記を得た森田信太郎より本件宅地の譲渡を受け其旨の登記を経た第三取得者たる原告に対抗する為めには右贈与による所有権移転の登記を必要とする処訴外田中秀三及被告田中徳三がいづれも右贈与により所有権移転登記を経てゐない事実は被告両名の認める処であるから被告田中は原告に対し、本件宅地について所有権者たる事を主張する事が出来ないと調わねばならぬ」と判示し被告の抗弁を排斥してゐるが抑登記は公示方法であつて単に第三者に対抗する要件に過ぎないのであつて登記によつて当然に所有権の変動を生ずるものでない事は勿論である。

而して本件の場合右判示事実の通り訴外森田信太郎が森田てふの死亡によつて家督相続をなす以前たる昭和五、六年頃田中秀三が贈与により本件宅地の所有権を取得し昭和二十二年頃被告田中徳三、訴外田中秀三と協議の上森田は田中秀三の所有権者たる事を前提とし被告田中徳三に贈与された事実を確認したのであるから森田信太郎が森田てふの死亡により家督相続を為す場合には既に訴外田中秀三の所有であつた事は明であり其登記の欠缺を主張する権利を抛棄して居つたので森田信太郎は相続登記をしたからと云つて本件土地に対する所有権が移転する筈がないのであるから自己の有せざる権利に付原告に対し所有権移転の登記をしても実体権を伴わないから原告に於て所有権を取得する所謂がない。

従つて甲が自己の所有する不動産を乙に譲渡し其登記を為さずして更に丙に譲渡し之が登記を為した場合に於ては甲に於て所有権を有するのであるから乙に対しても丙に対しても所有権を移転する事は法律上可能であつて此場合丙に登記をした以上は乙が先順位に於て不動産の所有権を取得した事を理由として丙に対抗する事は出来ないのである事は勿論であるが之と同様に本件を律しようとする第一審並原審判決は畢竟権利取得に関する法理と対抗要件に関する登記制度の法理とを混同するものであつて極めて違法の判決であると謂わねばならぬ。(大審院明治三十一年(オ)第九一号同年六月三日民事二部判決、同三十一年(オ)第三四二号同年十月二十六日民事二部判決、同大正元年(オ)第一九号同二年三月二十日民事一部判決、同大正六年(オ)第二六一号同年四月二十六日民事二部判決参照)

三、(略)

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